ぬまのつぐみ

おもにサウナで気持ちよくなったことを自慢するブログです

キュア国分町

 今から6年前の、初秋の頃だったと思う。バンコクからクアラルンプールに向かう機内で、ある日本人女性と席が隣になった。

 彼女は着古した作務衣を纏い、髪はおさげで、白人ばかりの機内で一人異彩を放っていたが、ひょんなことから彼女との会話がはじまった。たぶん、彼女のシートベルトを僕が踏んでいたとか、そんな切掛だったと思う。

 彼女が言うには、なんでもホラー漫画家を生業としており、取材として数々の殺人現場に足を運んでいるという。「へぇ」とか適当に相槌を打っていたら、独自の除霊方法を披露し始め、ふと言葉が止んだかと思うと「お兄さんは、私のこと変だと思わないんですか?」と訝しげに僕を睨みつける始末であった。

 急に冷静になっている様があまりに可笑しくて笑っていたら、彼女は気分を害すわけでもなく、仏間を舞台とした霊障との戦いを語り始め、気づけばクアラルンプールに到着してしまっていた。

 経由便の待ち時間も解放されず、(このまま次の国も一緒じゃないだろうな)と不安になり始めたころ、彼女はねっとりとした礼を述べて関空行きの飛行機ゲートにズカズカ歩いていったのだった。

 

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 先日、ぼくは仙台に向かうため東北新幹線に飛び乗った。前日にだらだらと作業をしたせいで徹夜してしまい、新幹線でゆっくり寝ようと考えていた。

 窓側の指定席を目指して通路を進むと、僕の席の隣で、既に初老の女性が弁当を食べていた。

 わ「すいません、とおしていただけますか」

 女性「え。ああ。はいはい」

かなり面倒くさそうに駅弁を手仕舞い、こっちはなぜだか申し訳ない気分で女性の膝を跨いで窓側に座った。上着も脱がずにすぐ寝ようと思っていた。

 女性「どちらまで行くんですか?」

 わ「仙台です」

 女性「私は横手まで。この前はじめて父に叱られちゃって・・・」

なぜだ。なぜ父の話がはじまるんだ。しかも横手は新幹線停まらないじゃないか。

心の叫びも虚しく、僕は相槌を打ちながら、件のホラー漫画家を思い出していた。

 

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 ついぞ仙台まで眠ることはなく、(今日の発表は完全に失敗する)と不安になりながら現場に向かった(徹夜した自分が悪いのだけど)。

 優しい大人の皆さんのおかげで発表も無事終了し、飲み会帰りに現地のN先生・T村さんと歩いていた。

 N先生「ホテルはどこなの?」

 わ「・・・恥ずかしながら、いつもサウナに泊まっています」

 N先生「キュアか」

 わ「そうです!」

 N先生「俺もよく行くわ」

 

同志を発見。東京のサウナトークをしていたら、キュア国分町に到着。

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 N先生「別にキュアの写真は撮らんでもええやろ」

 わ「もう、テンション上がっちゃいまして」

 

先生と別れ入店し、靴を脱いで受付に向かう。贅沢にカプセルホテルに泊まろうかと思案していると、メンバーズカードを作ることを勧められた。だいぶ安くなるようなので登録。

 服を脱いで館内着に着替え、5Fの大浴場へ。丹念に身体を洗っていると、酔っ払った頭も冴えてくるから不思議だ。湯船で一汗かいてから、ここで一番の輝きを放つ水風呂へ。水深90cmと深く、水温17℃(表示)で循環も激しい。最高のクオリティだ。

 満を持してサウナ室の扉を開けると、夜間のために人はまばら。室温は90℃ちょい。最上段に座って胡座をかき、前方に横たわるトドのようなおじさんを眺めていると、10分ほど過ぎていた。

 退室し、汗を流して水風呂に飛び込む。お腹に力を入れて、冷たいのを我慢する。全身の皮膚が引き締まって水に慣れてくると、全身どくどくと脈打っているのがわかる。力を抜いて水面に浮かぶ。

 外に出て露天の寝湯に浸かり、ぼうっと空を眺める。国分町は繁華街だが、ずいぶん静かだ。・・・これを三往復ほどして、椅子に腰掛ける。足の先から感覚は薄れ、全身を血が巡る感覚だけが残る。やがて訪れる多幸感に身を委ねれば、出来上がり。

 

(追)ちなみに、ここのカプセルは今まで泊まった中でもっとも綺麗で快適だった。それでいて総額3780円。ご飯も美味しい、館内はすごい清潔、タオルは使い放題・・・また来れる日が待ち遠しい。