ぬまのつぐみ

おもにサウナで気持ちよくなったことを自慢するブログです

ユーランド鶴見

とうとうシングルに挑戦する日がやってきた。シングルは一桁温度の水風呂だ。

極冷の水風呂に浸かりに、神奈川県は川崎までのこのこやってきたのだった。

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川崎は5年前の出張以来。あまり縁が無い土地だが、SOTさんのおかげで、関東にシングルがあることを知る。

 

JR駅からバスに乗り、目的地を目指す。

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僕のような田舎者からすると、神奈川県は都会全開のイメージだが、川崎は地方都市的な風情を残している。

車窓を覗いていたら10分ちょいで到着。ユーランド鶴見だ。

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受付で「初めてです」と告げると、やさしく解説してくれた。90分入場とタオルセットで1000円也。(館内はおじさんのカラオケが鳴り響き、職員とおばあさんが親しげに立ち話をしている。)

 浴場に入ると、平日昼間だからだろう、客層の平均年齢は70歳近い。(完全に浮いとる・・・昼間からぷらぷらしてる若者だと思われる・・・実際そうだけど・・・)。つくりとしては、よくあるスーパー銭湯。身体を洗い湯船で軽く汗を掻く。

 

 まずはサウナ前に、お目当の水風呂へ行く。9.5℃の表示。(ま、正直あんま変わらんだろ・・・)と思って足を入れる。浴槽の奥へ行こうと水の中を歩くと、足が痛い。とにかく痛い。(だめだ、歩けねぇ)。「はいー」と声に出しながら腰を下ろし、勢いで肩まで浸かる。呼吸を整える。10秒しか入れなかったが、腰も気道もキンキンだ。

 サウナ室を開けると、これまたすごい熱気。水風呂に一度入ってるのに、尻が熱くて、座るのに難儀だ。温度計は95℃を示しているが、僕の知ってる95℃ではない。しかし不思議と苦しさは感じず、ぼたぼたと汗をかきながら金正男氏のニュースを眺める。

 退室し、扉横の打たせ湯で汗を流してから水風呂へ。ここから本領だ。水風呂へ一気に入り、後頭部まで浸して脱力・・・できない。浅い呼吸で、身体を慣らす。水風呂の中に座ること以外、なにも考えられない。なんとか土左衛門化すると、すでに目の前が焦点合わなくなってきた。いかん。

 外気スペースに脱出。ベンチに座り、力を抜いた瞬間に身体がぐったりと椅子と同化する。目も閉じれず。一ミリも動けず。(やだ・・・なにこれ・・・これすごい・・・)

 一往復で昇天してしまったが、再びサウナ室へ。まだまだ、もっとすごい世界が待ってるのでは無いか、と期待せざるをえない。あっついサウナ室は、自然と思考が無になるものだけど、その状態を維持するのは努力が必要になる(追1)。というか、そうしないとこの部屋で長く座れない。

 粘りに粘って、シングルへ突入。ここまでくると、なにがなにやらわからない。自分の身体がただ重いだけになる。よたよたと外気浴スペースへ。目を閉じるも、半眼にしかならず。

 

 ああ、これは、すごい世界だ。

 

***********

帰りは演歌のかかる送迎バスで鶴見駅まで送ってもらう。

ユーランド鶴見は、シングルが注目されていたが、かなり熱いサウナとセットだからこその大昇天なんだろう。

一見するとおじいさんおばあさんの平和な健康ランドだが、どこかのサウナーが書いていた「泣く子も黙る健康ランド、ユーランド鶴見」というフレーズは本当だった。

 

(追1)高温サウナは「何も考えない」状態になるのは簡単だが、「何も考えない」を維持するのは他所と同じで難しい。こういうときよく思い出すのだが、大学時代にやった座禅の授業で住職が言っていたことを実践すると、暑さも気にならなくなる。

 少しだけ書かせてもらうと、あの授業は僕の大学で最も価値のある授業の一つだった。講師は曹洞宗藤田一照先生で、他の禅体験と異なり、とてもわかりやすくレクチャーを施してくれた。先生自身、東大大学院の哲学科を中退して禅の道に入った方でもあり、教えるのが上手だったのだろう。最初は、簡単なレクリエーションで身体の力を抜く方法だった。これだけで1日使った。次のステップは脱力のなかで身体のバランスをとる方法だった。これは骨格と頭の重さ、筋肉の重さを意識することだった(と覚えている)。最後は禅の実践だった。そこまでで教えてもらった身体の認識を意識しながら、正しく座ろうとしているだけで数時間があっという間に過ぎた。

先生「本当はここからが本番なんだよね。なんで座らなきゃいけないんだろう、とか、自分はどうしてこんなことを始めたんだろう、と考えはじめてからなんだ」

と、小柄な先生がニコニコと喋る姿は未だに思い出される。

 この先生なら通いたいなあ、と思ったが、当時はアメリカのお寺に居たので会う機会も無く。先生の著書を購入して、サインして貰うくらいしか爪痕を残す方法が思いつかなかった(なんとも貧しい脳みそだ)。あれから禅に興味をもち、何度か経験してみたが、藤田先生が一番感動したなあ。(と思って久しぶりにググったら、日本でいろいろ活動されているようです)

 話は戻るが、まあ、正直サウナと禅を結びつけると怒る人も多そうだけど、しかしあの暑い空間で綺麗な気持ちを保つならば、少しは似通ったところもあるのでは無いかしらん、と思うのですよ。気持ちを綺麗にしたくて通っているわけですし。

 それで、暑ければ暑いほど、意識を集中する本気具合も必要になってくるわけで。そういう意味で、ユーランド鶴見のサウナは、一つの自分との戦いだった。

アパホテル幕張

チャールズとの用事があり、千葉に泊まる機会があった。

海浜幕張駅から強風吹き荒れるなか歩くこと5分。アパホテル&リゾート・トーキョーベイ幕張が見えてくる。

www.apahotel.com

この辺は手頃なサウナがあまり無いのだけれど、このアパホテルはものすごい風呂の量なのだ。

風呂は全部で5種類もある。そのうち、サウナを完備しているのは飛翔の湯(そのなかに白砂、星彩の2種類がある)と若紫の湯。若紫の湯は女性専用浴場なので、白砂か星彩を目指す。この二つは、時間帯で男女が入れ替わるようだ。

このアパは空港が近いようで、ロビーにはパイロットやCAさんが多く歩いている(彼らのような人種は煌びやかで眩しい。パイロットになったゴマは元気だろうか)。

 

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この時間は星彩の湯が男湯だった。浴室に入ると、湯船でクロールをかましている青年が一人だけ(邪魔してごめんよ)。ロビーの混み具合の割には空いていた。

ここは湯船が数種類と、広々とした露天風呂がある。露天は照明が綺麗で、寒いなか立ち上る湯気が幻想的だ。この湯気をぼうっと眺めながら浸かるだけで幸せな気分になる。

さてさて、サウナは、と探すとミストサウナだった・・・いや、ミストサウナ嫌いじゃないけどね・・・。一応小さいながらも水風呂が完備されている。サウナは、もう少し湿度か温度が欲しかったところだけれど、まずまず。水風呂も20度ほどだろう、少しぬるいけど、サウナと水風呂を粘り強く往復すると心地よい。

 

時間をズラし、白砂の湯が男湯になったタイミングで再突入。こちらはドライサウナだが、温度が少し低めか。でも、ここも湯船の種類が多くて楽しめる。他の風呂も入ってみたかったが、それはいつかの楽しみにしておこう。

ちなみにアパグループなので、宿泊料金は良心的。それでこの風呂の数は素晴らしいとしか言いようが無い。

湯楽の里

夜勤中にムラムラきた。

「サウナに・・・サウナに入りたい・・・」

夜勤明けに原付で土浦へ。

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(腹立たしいほどに快晴)

 

幹線道路を避け、田んぼ道を走ること三十分。目的地に到着。

 

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今日は湯楽の里土浦店だ。入浴料とタオルセットを合わせても1000円以下。平日昼間だというのに、なかなかの混み具合だった。

 

浴室出入口に近い洗い場に陣取ると、ロン毛のお隣さんが貞子状態で洗髪中。(綺麗な黒髪だなあ)

頭と身体を洗って内湯に浸かる。洗い場のほうを見ると、さっきのお隣さんはまだ貞子状態であった。(髪が長いと大変だな・・・)と思っていると、顔を上げて髪を結い、そのまま水風呂へ直行する貞子。

 

(貞子サウナーかよ・・・俺もサウナ行くべか)

 

水風呂で歯をくいしばる貞子・・・の顔をチラッとみたら、近所のセブンの兄ちゃんだった。(以前のブログでも書いたぐらいには仲良し)

 

話しかけようと思ったが、彼も仕事終わりで風呂に入っているわけで。勤務先の客なんぞに話しかけられたら営業モードにさせてしまうかしら・・・結局人見知りが発動して喋れず。

サウナ自体は、よくある高温乾燥型のサウナ。水風呂も18度ぐらい。外気浴スペースもあり、文句なし。1時間ほど居座って退店し、昼から登校した。

 

深夜4時ほど、帰宅途中にセブンに寄る。居た、貞子の兄ちゃんだ。

 わ「今日湯楽の里に居ませんでした?」

 兄「居ましたよ〜。お兄さんも居ました?話しかけてくださいよ〜」

いつもの爽やか笑顔で対応してくれる兄ちゃん。

 彼は週2, 3のペースで通っているらしい。他の客も居ないので(失礼)、しばしの間、この界隈のサウナ事情を立ち話し。普段から喋っていると気持ちの良い兄ちゃんなのだが、サウナを話題にして更に仲良しになれた気がして嬉しい日だった。

サウナセンター大泉

浴場の扉を開けた瞬間に「今日は大昇天の予感。」と感じるときがある。

 

この日のサウナセンター大泉は、まさにそうだった。身体を洗っている時から静かに興奮し始める。いつもより更にじっくり身体を洗い、湯船で身体を温める。早まってはいけない。

 

ドキドキしながら、(実際はじめてサウナに入るくらいに緊張しながら)扉を開けると、むわっと熱気が身体を包む。いつもと違う、まとわりつくような蒸気だ。

 

最上段に座って姿勢を正し、じっと窺う。いつも以上に熱気の密度(?)が濃く感じる。身体の表皮隅々まで温めてくれている感覚だ。五分ほどでとりあえず退室。

 

汗を流して、1度目の水風呂。後頭部まで浸かって浮遊する。水風呂での脱力が、この日はじつに上手くいった。体育座りに直し、水面をぼうっと眺める。

 

身体の水分を軽く拭いてから2回目のサウナへ。身体は爽やかに上書きされているため、サウナの熱気をじわじわと味わえる。吐く息は、まだ水風呂のおかげで冷たい。

 

(やっぱり今日は、もしや)と思いながら、身体の熱くなっている部位を意識していく。肩、肘、手の甲、足先、背中、腰・・・そのうち、ぼたぼたと一気に汗が吹き出てくる。大きく深呼吸して、ストレッチ。

 

10分ほどで退室。じっくりシャワーを浴びて2回目の水風呂へ。同じく土左衛門と化して天井を見つめていると、じつに五分ほど過ぎていた。(いかん、これは浸かりすぎた)と思いながら浴槽をでると、浴室内の気温がすでに暖かく感じる。心なしか、腰に力が入らない。

 

3回目のサウナへ。腰かけて姿勢を正したら、蒸気に包まれ身体が温まりはじめる。安心感に包まれるようで、これがじつに心地よい。(もう何も考えられない)。まったく動けず、気付けば汗が噴出していた。

 

水風呂にはサクッと浸かり、浴槽脇のベンチに腰掛ける。力を抜いた瞬間に訪れる身体の痺れ。身体中のセンサーを切るように努力して、さらなる多幸感を目指す。頭蓋の重さを感じるようになったら、昇天。

 

やっぱり今日は、最高のサウナだった。

 

(追記)

最近足立区がアツい(勝手に)。この日は足立区に用事があり、足立区の防犯を学ぶこととなった。防犯とは関係ないが僕は元来、被差別集団に興味があって今の研究を続けている節がある。自然とこの日も、足立の歴史を触れることからはじまった。

 足立区は武蔵野国足立郡を前身として、江戸の頃より日光街道および奥州街道が横たわる交通の要のひとつだった。 当時の第一宿「千住宿」を擁したことから千住区域が繁華街として栄え、現在も北千住駅周辺にその名残が伺える。

 そもそも足立区は被差別部落としての一面があったようだ(川本・藤本 1984)。それは荒川・墨田川に挟まれていること、また歴史的繁華街である浅草および吉原の郊外にあたっていたことからも想像に難くないように思う。もとより河川敷という場所は、足立区に限らず、屠殺や皮革業を生業とする人々が集まりやすい場所だった。 1890 年には、荒川に行政屠場が設けられ、 のち1913 年には各地の屠場が吸収合併されたのだった(西井 1987)。1923 年の関東大震災を機として、浅草をはじめとする繁華近隣より被災民が流入し、結果として皮革業や在日朝鮮人が集中して定住化したことで スラム街化したようだ。このへんは、代表的な被差別地域(京都の崇仁地区など)と似たような特徴が伺える。

 東京都は歴史的に、都内での部落の存在を認めない立場をとってきたようだが、部落解放同盟足立支部が現在も残っていること、また教育関連団体が足立区に対して解放同盟の扱いについて交渉を行うなどしていることから(教育正常化推進ネットワーク 2015)、被差別地域と足立区の関連はあながち間違いでもないのだろう。このような歴史的背景が大きな原因とは限らないが、ひとまず足立区の犯罪件数は都内トップを独走していたのも事実だ。ちなみに、ついで2位は新宿などの都会だ(警視庁 2015)。

 僕の研究対象は日本ではないためこのような話は全く生きないわけだけど、世界にはもっと極端な例が存在する。たとえばルワンダのツチ・フツ族が有名だ(注1)。このジェノサイドはたった100日間で国民の1割が亡くなってしまったあまりにも有名な事例だ。ここで注目すべきはラジオ・プロパガンダの役割で、ラジオが扇動しまくったせいでフツ族の闘争心に火がつき、昨日まで友達だったお隣さんが排除対象となった点である。人間がもつ他人への評価なんて、あまりにも脆いものだなあと考えさせられる(注2)。

 ルワンダ虐殺ではなくても、探ってみるとこのような集団間対立は、世界のじつに多くの場所で起こっているのである。アフリカの歴史は高校の教科書にはあまり出てこないが、つまりそういうことかも知れない。もちろん欧州にもこのような対立は存在するが(イングランドアイルランド過激派みたいな)、こういう部分は教わらないしニュースにもなかなか取り上げられない(注3)。しかして実際はみな心のどこかで、意識せずとも差別的感情の萌芽をもっている。たしかホワイトカラーにその傾向が強いって研究があったが、忘れてしまった。

 酔っ払ったので勢いで書いたけど、つまんない話でごめんなさい。

 

(注1)第一の例は欧州の奴隷貿易だが、その話はおいとく。しかし近年、Nathan Nunnが奴隷貿易の研究を、Histrical impact evaluationで行っていてめちゃおもろい(たとえばこれ

(注2)僕の専門は思想などではないので、これ以上の考察はできませぬ。先日、社会学の学生と喋る機会があったけれど、思考体系がまったくつかめなかった。だれかおせーておくれ。。。

(注3)先日NHKで知ったが、スポンサーに頼らないメディアが注目されているようで。つまりはニュース内容に偏りや思惑などが存在しない、ということらしい。(芸能人のスキャンダルなんか報道しない!って言ってたけど、ぼくはそういうニュースは案外嫌いでもない)。この手の走りはI.F. Stoneというおじさんが自分でマガジンを出版していたことにはじまるらしく、いまではDemocracy Now!などが有名なようだ。まあ、英語わからんから無理なのだけどさ。

 

(ここで書いた文の一部は、ぼくが提出した授業レポの引用だす)

偕楽苑

実家で1泊する機会があった。

郷里の盛岡市は、車で30分圏内に温泉が百近く点在している。両親は週末、連れ立ってあちこちの温泉に通っているようで、僕が帰省しても、特段変わるわけでもなく温泉の話となる。

 父「お前は、サウナが好きだったな」

 わ「はい。」

 母「帰りにユニクロに寄りたい」

 わ「それは嫌だ」

 ・・・

行き先はわからないが、車に乗って出発する。

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(年々降雪量は減少しているらしい。暇なので写真を。)

 

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(基本的に、四方を山に囲まれた田舎。落ち着く)

 

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雫石川が凍結している。川向こうには岩手山が望めるはずだが、生憎の雲模様だった。)

 

30分ほど走ると、目的地に到着。鶯宿温泉偕楽苑だ。

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 父「ふるさと納税で、鶯宿温泉のどこかのホテルを貸切にできるらしい。」

 母「ふーん」

 父「100万円以上で」

 母「げ」

 わ「・・・(平和だ)」

 

靴を脱いで、入浴料600円を払う。浴室の広さは、大きめの銭湯くらい。久しぶりの温泉だ。大浴場の他に、露天風呂とサウナが。サウナが。あった・・・。

 湯船と露天を行き来し、しっとり汗を掻く。サウナの扉を開けてみる。3〜4人が座ればいっぱいの、コンパクトなサウナだ。室温は85~90℃くらいかしら。湿度は低いけれども、ただただ静かで心地よい。

 とりあえず五分砂時計2回分を堪能。サウナ室から退室し、水風呂を探すも・・・無し。(一応、手桶で掬えるように小さく水が溜めてある。)

 

 正直なところ、水風呂が無いサウナは、餡子の入っていないどら焼きみたなもので(失礼)。だがここは岩手。外気はマイナス10度近い。

 外に出て浴槽の縁に腰をかけると、身体から湯気がもくもくと沸き立つ。

 からりと晴れていい天気だ。風もなく、木立が静かに佇んでいる。

 視線を降ろすと、露天風呂の水面が揺れている。夕暮れ前の日差しが反射して綺麗だ。気持ちはどんどん嫋やかになってゆく。

 

 水風呂が無くても、サウナって気持ちいいんだ。(まったくもってサウナってやつは、どこまで魅力的なんだ)

キュア国分町

 今から6年前の、初秋の頃だったと思う。バンコクからクアラルンプールに向かう機内で、ある日本人女性と席が隣になった。

 彼女は着古した作務衣を纏い、髪はおさげで、白人ばかりの機内で一人異彩を放っていたが、ひょんなことから彼女との会話がはじまった。たぶん、彼女のシートベルトを僕が踏んでいたとか、そんな切掛だったと思う。

 彼女が言うには、なんでもホラー漫画家を生業としており、取材として数々の殺人現場に足を運んでいるという。「へぇ」とか適当に相槌を打っていたら、独自の除霊方法を披露し始め、ふと言葉が止んだかと思うと「お兄さんは、私のこと変だと思わないんですか?」と訝しげに僕を睨みつける始末であった。

 急に冷静になっている様があまりに可笑しくて笑っていたら、彼女は気分を害すわけでもなく、仏間を舞台とした霊障との戦いを語り始め、気づけばクアラルンプールに到着してしまっていた。

 経由便の待ち時間も解放されず、(このまま次の国も一緒じゃないだろうな)と不安になり始めたころ、彼女はねっとりとした礼を述べて関空行きの飛行機ゲートにズカズカ歩いていったのだった。

 

******************

 

 先日、ぼくは仙台に向かうため東北新幹線に飛び乗った。前日にだらだらと作業をしたせいで徹夜してしまい、新幹線でゆっくり寝ようと考えていた。

 窓側の指定席を目指して通路を進むと、僕の席の隣で、既に初老の女性が弁当を食べていた。

 わ「すいません、とおしていただけますか」

 女性「え。ああ。はいはい」

かなり面倒くさそうに駅弁を手仕舞い、こっちはなぜだか申し訳ない気分で女性の膝を跨いで窓側に座った。上着も脱がずにすぐ寝ようと思っていた。

 女性「どちらまで行くんですか?」

 わ「仙台です」

 女性「私は横手まで。この前はじめて父に叱られちゃって・・・」

なぜだ。なぜ父の話がはじまるんだ。しかも横手は新幹線停まらないじゃないか。

心の叫びも虚しく、僕は相槌を打ちながら、件のホラー漫画家を思い出していた。

 

******************

 

 ついぞ仙台まで眠ることはなく、(今日の発表は完全に失敗する)と不安になりながら現場に向かった(徹夜した自分が悪いのだけど)。

 優しい大人の皆さんのおかげで発表も無事終了し、飲み会帰りに現地のN先生・T村さんと歩いていた。

 N先生「ホテルはどこなの?」

 わ「・・・恥ずかしながら、いつもサウナに泊まっています」

 N先生「キュアか」

 わ「そうです!」

 N先生「俺もよく行くわ」

 

同志を発見。東京のサウナトークをしていたら、キュア国分町に到着。

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 N先生「別にキュアの写真は撮らんでもええやろ」

 わ「もう、テンション上がっちゃいまして」

 

先生と別れ入店し、靴を脱いで受付に向かう。贅沢にカプセルホテルに泊まろうかと思案していると、メンバーズカードを作ることを勧められた。だいぶ安くなるようなので登録。

 服を脱いで館内着に着替え、5Fの大浴場へ。丹念に身体を洗っていると、酔っ払った頭も冴えてくるから不思議だ。湯船で一汗かいてから、ここで一番の輝きを放つ水風呂へ。水深90cmと深く、水温17℃(表示)で循環も激しい。最高のクオリティだ。

 満を持してサウナ室の扉を開けると、夜間のために人はまばら。室温は90℃ちょい。最上段に座って胡座をかき、前方に横たわるトドのようなおじさんを眺めていると、10分ほど過ぎていた。

 退室し、汗を流して水風呂に飛び込む。お腹に力を入れて、冷たいのを我慢する。全身の皮膚が引き締まって水に慣れてくると、全身どくどくと脈打っているのがわかる。力を抜いて水面に浮かぶ。

 外に出て露天の寝湯に浸かり、ぼうっと空を眺める。国分町は繁華街だが、ずいぶん静かだ。・・・これを三往復ほどして、椅子に腰掛ける。足の先から感覚は薄れ、全身を血が巡る感覚だけが残る。やがて訪れる多幸感に身を委ねれば、出来上がり。

 

(追)ちなみに、ここのカプセルは今まで泊まった中でもっとも綺麗で快適だった。それでいて総額3780円。ご飯も美味しい、館内はすごい清潔、タオルは使い放題・・・また来れる日が待ち遠しい。

ウェルビー栄

この日は急な私用で、愛知県は半田市へ向かう。

JR武豊線の半田駅は日本最古の跨線橋(線路を跨ぐ通路)が残っていて、明治のものらしい。駅舎全体が古く、色合いも含めて、おもちゃみたいなかわいい造りだ。1月の愛知はまったく寒く無く、上着なしで歩けるポカポカ陽気だった。海も近いため、沿岸独特の空気が漂う。

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(写真が下手だけど)

 半田といえば酢のにおいが充満する町だった。江戸の頃より、ミツカン本社とその工場が半田にあったからだ。最近は工場を移してしまったようで、すっかり酢の臭いが無くなってしまった。・・・知多半島の街並みを堪能しながら、親戚方に合流。なかには十数年ぶりに会う叔父さんなども居て、すこし緊張した。

 夕刻に用事が済んで親戚と解散し、ひとり栄へと向かう。お目当てはふたつ。ひとつはウェルビー栄だ:

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(まだ門松が飾ってあった)

 

 ここの、「森のサウナ」は、最高のサウナです。

 

もう、なんといいますか。私のような若輩者が書き記すのもおこがましいのですが、こちらの森のサウナは是非いちど、経験していただきたいです。本場フィンランドのサウナには行ったことがないのだけれど、フィンランド式サウナを忠実に再現したものらしく、コテージのような8畳ほどのサウナが「森のサウナ」。

 薄暗い落ち着く照明。テレビはもちろん設置されておらず、静謐な空間が保たれている。腰をかける椅子は3段。最上段では頭が天井に接するかどうかで、熱気を無駄にしない。またセルフロウリュが可能で、その強輻射熱によって、ストーブ型とは異なる肌への加熱が味わえる。一歩間違えれば呼吸すら難しいのだが、自然と苦しくない。

 さらに、ヴィヒタが「これでもか」と置かれていて、白樺の香りが充満している。出入り口の扉は、下部20cmほどが切り取られているため、換気扇に頼らない換気が行われる。

 新鮮な空気に森の香り。電源ではない優しいサウナストーン。時間が止まったような空間だ。ぼくは、ここのサウナが大好きだ。

 さらには水風呂も15℃ほどで、胸までの水深。(こんな贅沢が許されて良いのだろうか)。二往復してリクライニングに腰掛けると、即刻頭が真っ白になってしまう。体が浮いているよう。ゆっくり頭の向きを変えると、頭蓋の重さを感じる。なにも聞こえなくなっていく。

 

・・・1時間しか滞在を許されなかったため、泣く泣く退店。栄の二つ目の目的は、ウェルビーから歩いて1分、珈琲屋のびぎんだ:

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大学生の時に「ガガーン」とショックを受けてからファンなのだけれど、珈琲豆ってこんなに味濃いの?ってくらい濃厚でチョコレートみたい。伝わりにくいかもしれないんですが:

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(左が"びぎん"の豆で、色が濃くて少し脂っぽいです。ちなみに右のも紅茶みたいで美味しいよ)

もちろん下手くそな俺が淹れても味が違います。びぎんのおっちゃん、ありがとう。